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グループホーム大会  : つつじの夢 - 不安・淋しさを訴える入居者への対応

サブタイトル:〜一人の入居者をとおしてケアの在り方を考える〜
施設名:つつじの夢
発表者:尾島のゆり
共同研究者:松本 忍 入野 祐子


【はじめに】
「グループホームつつじの夢」は介護老人保健施設を母体とし、H12年7月に開設。1ユニット=6人定員。職員は常勤職員5名であり、現在の入居者は全員 女性(平均年齢は86歳)である。認知症症状は様々であるが、できる限り「地域の社会資源を活用」し、外出の機会を多く設ける事で、心身の活性化を図ると 共に、1人1人の認知症度や身体機能のレベル、生活のペースを十分に尊重しながら、残存機能・潜在能力を引き出せる様な場面設定を行ってきた。よって職員 側が予測しえない能力の発揮が垣間見ることができ、日々発見と喜びの連続でもあり、我々職員にとっても大きな「やりがい」となっている。しかし、反面「悩 み」や「ストレス」も多いのも正直な所である。中でも「ご家族の居場所を求めて寂しさや不安」を訴える入居者のケアは、時に明確な対応策を見いだせること ができず、その場限りのケアの提供でしかなく、ジレンマさえ感じるのが現状である。私たちは、このような1人の入居者の事例から、関わり方やケアの在り方 を再検討し、その結果「入居者自身の生活の変化」と「われわれが学んだ」ことについて今回報告する。

【事例紹介】
氏名:N.Mさん(83歳、女性)病名:アルツハイマー型認知症 
認知症度:4  寝たきり度:A2  HDS-R=4点  要介護度:3  
入居までの経過
H2年2月頃より物忘れの認知症症状出現し徐々に進行。H12年2月夫が他界。
その後更に認知症症状が悪化。11月より老健の入所。H13年2月当GHの入居。

【入居当初からの処遇と経過】
ご家族の協力のもと、N.Mさん好みの小物や昔の写真を飾る事で、安心して過ごせる居室(居場所)となり、生活にはすぐに馴染じむことができる。他者とも 気軽に関わる場面が見られ、充実した日常生活を過ごしている様子は伺える反面、日々断続的に「帰りたい」と深い落ち込みや「(亡き)夫・両親はいつ迎えに 来るのか」等の訴え、感情失禁がみられる。職員は積極的にコミュニケーションやスキンシップを図り、その都度安心できる言葉かけや、「明日、迎えに行く。 パパより」といった手紙を作成し、手渡すことで一時的な落ち着きと納得に繋ながる。しかし、淋しさや不安の解消にはならず、手足の痛みを訴えたり、特定の 入居者に対しての意地悪な言動が増えてくる。

【入居6ヶ月目からの処遇について】
1.N.Mさんに対する過度の気遣いや声かけを控える。
2.手紙の回収(職員が書いた物)
3.生活史・個人史を探り直す。
4.夫・両親の死を伝える。

【入居6ヶ月目からの処遇の評価ついて】
過度の関わり(かまいすぎの環境)の回避により、他者の陰口も徐々に減少し始め、反対に他者を気遣う、明るく振舞う、穏やかな表情がみられるようになる。
手紙の回収と夫や両親の死を伝えることで、「誰かが迎えに来る」と思い出すきっかけが無くなり、それに伴い訴えも減少した反面、夫の存在が薄れ忘却しつつある。
再度N.Mさんのバックグランドのアセスメントを徹底して行い、回想法を導入。
過去の記憶を蘇らせる様な関わりや声かけを行う。例えば、出身地・家族・親戚の名前をヒントとして伝えることで、時に落ち込んだり、涙しながらも一生懸命に思い出したり、考えたりする姿が見られ、昔の出来事などの話題もするように変化していった。

【まとめ及び考察】
私たち職員は、施設での介護経験があり、不安や淋しさを訴える入居者などの対応には慣れており、その場が安心できる言葉かけや、気分転換になる作業や活動の場面をつくっていくことが最善のケアだと思い込んでいた。
入居者一人一人の意志や、行動を尊重しようと日々努力しているものの、頭のどこかでは「認知症だから言ってもわからない。思いだせない。かえって思い出さ せる事で、悲しい思いや泣いてしまう事は可愛そう」と、不安を感じさせない様に、穏やかに過ごせるような対応を心がけていた。しかし、その場限りの対応や 気分転換だけでは、訴えや帰宅願望、表情も一時的にしか変える事はできなかった。
私たちはN.Mさんとの関わりについてもう一度見つめ直し、「一緒に悩み・考え・思い出させる事、時に怒り・涙する事・現実と向き合う事」も、日々の生活 や人生において必要ではないかという結論に辿り着いた。認知症症状を有しながらも「人間らしくその人らしく生きる事」の重要性を再確認し、日々のケアの中 に取り入れていった結果、N.Mさんは夫や両親の死を認識するまでに至らないが、ここ最近本当の笑顔や落ち着きを取り戻しつつある。また、表情や言葉、仕 草から伺える変化はとても大きいものがある。今回の事例をとおして、教訓した事は「その場限りの言葉や対応だけでは本当の解決にはならない」という事であ る。また、GH職員として今後も入居者と共に、認知症がありながらも「普通の暮らし」ができる事の実現に向け、ケアについて追及していく所存である。